福岡地方裁判所 平成9年(行ウ)1号 判決 1999年4月26日
原告
安部和治
右訴訟代理人弁護士
名和田茂生
同
田中久敏
同
古屋勇一
同
前田豊
同
小宮和彦
同
梶原恒夫
同
平野良晃
同
中村博則
同
仁比聰平
同
大神昌憲
同
柳沢賢二
被告
福岡県知事
麻生渡
右訴訟代理人弁護士
金子龍夫
同
野田部哲也
同
井口照義
右指定代理人
佐藤瑞義
外二名
主文
一 被告が原告に対して平成八年一〇月二八日付けでした別紙文書目録一記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。
二 被告が原告に対して平成八年一〇月二八日付けでした別紙文書目録二記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。
三 被告が原告に対して平成八年一〇月二八日付けでした別紙文書目録三記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。
四 被告が原告に対して平成八年一〇月二八日付けでした別紙文書目録四記載の文書を開示しないとの処分を取り消す。
五 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
主文同旨
第二 事案の概要
一 事案の要旨
本件は、原告が、平成九年三月三一日条例第六二号改正前の福岡県情報公開条例(昭和六一年三月三一日福岡県条例第一号、以下「本件条例」という。)に基づき、本件条例の実施機関である被告に対し、福岡県警察本部(以下「県警本部」という。)ないし福岡県議会事務局(以下「県議会事務局」という。)の支出証拠書類である別紙文書目録一ないし四記載の文書(以下では、それぞれ「本件文書一ないし四」といい、本件文書一ないし四を併せて「本件各文書」という。)の開示を請求したのに対し、被告が公文書不存在決定通知書四通を原告に対して送付したことについて、原告が、被告は右各文書を開示しない旨の処分をしたものであるとして、被告に対してその取消しを求める事案である。
二 関係法規の規定
1 本件条例における公文書の定義及び実施機関について
本件条例二条一項は、「この条例において「公文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、フィルム、録音テープ及びビデオテープであって、決裁又は回覧等の手続が終了し、実施機関において管理しているものをいう。」と定めているところ、同条二項は、「この条例において「実施機関」とは、知事、公営企業の管理者、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会及び内水面漁場管理委員会をいう。」と定めており、後記本件各通知当時、公安委員会及び議会は、いずれも本件条例の実施機関ではなかった。(その後の本件条例の改正により、議会は、実施機関とされるに至ったが、改正された本件条例は、施行日以後に議会の職員が作成し、又は取得した公文書に適用されるものとしている。)
2 福岡県財務規則(昭和三九年四月一日福岡県規則第二三号、以下「財務規則」という。)の規定について
(一) 財務規則にいう本庁とは、福岡県行政組織規則(以下「行政組織規則」という。)二条一号に規定する本庁のほか、県警本部及び県議会事務局その他の機関をいい(財務規則二条三号)、同規則にいう課とは、行政組織規則七条に規定する課(室)のほか、県警本部会計課及び県議会事務局総務課その他の課をいう(財務規則二条四号)。
本庁において財務会計事務を所掌する課を財務担当課といい(同条五号)、県警本部においては会計課が、県議会事務局においては総務課がそれぞれの財務担当課である(福岡県財務規則運用要綱第二条関係三項)。
本庁には、出納員が置かれ(同規則六条一項本文)、知事は必要があるときは、本庁の課及び廨に経理員を置く(同規則一一条一項本文)。出納員及び経理員が事務吏員でない場合は、別に辞令を用いず、当該職に補されたときをもって事務吏員に併任されたものとされる(同規則六条一項但書、一一条一項但書)。
(二) 財務規則一三一条一項は、「出納長及び出納員は、収入及び支出に係る証拠書類を、会計ごとに区分し、予算科目により分類して月ごとに編集しなければならない。」と定めており、同条二項は、「前項の証拠書類は、別に定める文書管理の方法により、編集し、保存するものとする。」と定めている。
三 前提となる事実
本件の前提となる、争いのない事実及び証拠により認められる事実(この場合は、認定に供した証拠等を<>内に摘示した。)は、次のとおりである。
1 福岡県における支出の手続は、概ね次のとおりである。
(一) 支出を伴う事業を実施しようとする部署(事業実施部署)は、事業実施のための伺書(事業実施伺書)を作成して決裁を行う。
決裁された事業実施伺書は、財務担当課に送付され、財務担当課は、支出予定額が各課の事務事業別予算の範囲内にあるか否か等を確認し、支出負担行為決議書を作成して決裁を行う(財務規則八七条、八八条)。
事業実施部署は、支出負担行為決議書の決裁を経て当該事業を実施し、その完了後、事業履行を確認する書類や債権者からの請求書等を右財務担当課に送付する。
財務担当課は、支出命令書を作成し、その決裁を行って、これを支出負担行為決議書や請求書等とともに出納長に送付する(同規則九二条)。
<乙一二、一三の各1、2、弁論の全趣旨>
(二) 出納長は、財務担当課から送付を受けた支出負担行為決議書その他必要な書類により、その内容を審査・確認した上で、支払決定を行う(同規則九三条一項)。
出納長により支払決定がされると、審査・確認のための照合資料(事業実施伺書等)及び支出命令書の所属控えは、財務担当課に返還される。
財務担当課は、事業実施部署に対し、照合資料のうち支出負担行為決議書以外のものを返還し、支出命令書の控えを送付する。
<乙一二、一三の各1、2、弁論の全趣旨>
(三) 従来、福岡県においては、出納長による支払決定がされた後、財務担当課から送付された支出証拠書類(昭和命令書及び請求書等)は、すべて出納事務局(出納課)において保管し、出納事務局以外の所属の閲覧等については出納事務局の承認が必要とされる取扱いがされており、本件条例の施行後も右取扱いは続けられていた。
しかし、出納事務局長は、平成八年一〇月一日付けで、本庁各部(室)長、教育長、警察本部長、各委員会(委員)事務局長及び県議会事務局長宛に、支出事務完了後、各部局から支出証拠書類保管の要請があれば移管する旨の通知を行った。
その後、右通知に従って、本件文書一及び二を含む県警本部の支出証拠書類は財務担当課である県警本部会計課に、本件文書三及び四を含む県議会事務局の支出証拠書類は財務担当課である県議会事務局総務課に、それぞれ移管(以下「本件移管」という。)された。
<乙一二ないし一四の各1、2、弁論の全趣旨>
2 福岡県の区域内に住所を有する原告は、同月一四日、被告に対して、本件条例に基づき本件各文書の開示を請求したところ、被告は、本件文書一ないし四のそれぞれについて、同月二八日付けで、知事部局において管理していないという理由を記載した公文書不存在決定通知書(甲一ないし四)を作成して、原告に交付した(以下「本件各通知」という。)。
四 原告の主張
1 本件各通知の処分性
本件各通知は、典型的な公文書非開示の処分ではないが、公文書を開示しないという法律効果が一方的に発生する点では同様なので、実質的には公文書を開示しない旨の行政処分として抗告訴訟の対象となる。
2 本件各文書の公文書性
(一) 「作成」について
県議会は、知事からその有する支出証拠書類等の予算執行上の文書の作成の委任を受けることはなく、県警本部は、地方自治法一八〇条の二により、知事から委任を受けることはあるが、福岡県においては、右の委任はされていない。
県警本部及び県議会事務局の財務担当課の職員が支出証拠書類を作成しているのは、知事部局の職員に併任されているからであって、本件各文書は、被告の職員が職務上作成した文書である。
(二) 「取得」について
前記第二・三1(一)(二)のとおり、支出証拠書類は、出納長の職務のために財務担当課から出納長に送付されるのであるから、本件各文書は、被告の職員が職務上取得した文書である。
(三) 「管理」について
(1) 本件条例二条一項にいう「管理している」とは、「法的権限に基づき管理している」と解すべきであり、被告の職員である出納長は、法的権限に基づき本件各文書を管理していたものであり、現に管理している。
その理由は、次のとおりである。
ア 支出証拠書類である支出命令書及びその添付書類は、地方自治法二三二条の四による地方公共団体の長の命令に当たって作成されるもので、支出の時点で出納長の審査のために必要であることはもちろん、支出後にも、支出に誤りがなかったかを点検するためにも必要であり、財産の記録管理や決算の調整等の同法一七〇条の定める出納長の職務の遂行になくてはならない。
イ そして、財務規則一三一条一項が、「出納長及び出納員は、収入及び支出に係る証拠書類を、会計ごとに区分し、予算科目により分類して月ごとに編集しなければならない。」と定めているところ、「証拠書類を編集」とは、証拠書類を編集した上で保管することを意味する。
したがって、出納長は、同条の定める権限に基づき本件各文書を管理していたものであり、現に管理している。
(2) 仮に被告の主張するように本件条例二条一項にいう「管理している」とは、「実施機関が文書の関する管理規程等に基づいて管理している」ことであると解するとしても、被告の職員である出納長は、本件各文書を文書管理規程に基づいて管理していたものであり、現に管理している。
その理由は、次のとおりである。
ア 前記(1)アイの出納長の職務からして、支出証拠書類が出納長の下で管理されることは当然のことであり、財務規則一三一条二項は、「前項の証拠書類は、別に定める文書管理の方法により、編集し、保存するものとする。」と定めているのであるから、同項にいう文書管理の主体は、同条一項の主体である出納長及び出納員である。
イ 前記第二・三1(三)のとおり、本件移管前には、出納事務局が本件各文書を含む支出証拠書類をすべて保管していたことからも、財務規則一三一条二項にいう文書管理の主体が出納長であることが裏付けられる。
したがって、被告の職員である出納長は、文書管理規程に基づいて本件各文書を管理していたものであり、現に管理している。
(四) 「決裁又は回覧等の手続が終了」について
本件各文書について決裁又は回覧等の手続が終了していることは明らかである。
3 右のとおり、本件各文書は、本件条例二条一項にいう公文書であり、本件条例に従い被告により公開されるべきものであって、被告が原告に対して平成八年一〇月二八日付けでした本件各文書を開示しないとの各処分(本件各通知)は、いずれも違法であるから右各処分の取消しを求める。
五 被告の主張
1 本件各通知の処分性
後記2(三)のとおり、本件各文書は本件条例二条二項の実施機関において管理していないことから、被告は、原告に対して、その旨を通知するため本件各通知をしたのであり、本件各通知は単に実施機関に文書が存在しない事実を通知する観念の通知にすぎず、抗告訴訟の対象となる行政処分ではない。
2 本件各文書の公文書性
(一) 「作成」について
本件各文書は、県警本部(福岡県公安委員会)ないし県議会において作成した文書であり、被告の職員が作成した文書ではない。
(二) 「取得」について
支出証拠書類は、出納長(出納事務局)において支出命令に対する審査・確認が終了すれば、県警本部ないし県議会に返還されることが予定されているので、出納長に本件各文書等の支出証拠書類が送付されたとしても、出納長がこれを取得したことにはならない。
(三) 「管理」について
本件条例二条一項にいう「管理している」とは、「実施機関が文書に関する管理規程等に基づいて管理している」ことをいい、被告の職員は、本件各文書を管理していなかった。
その理由は、次のとおりである。
(1) 本件条例二条一項にいう「管理している」とは、「実施機関が文書に関する管理規程等に基づいて管理している」と解すべきことは、本件条例の立法過程の資料から明らかである。
(2) 文書の保管・保存・廃棄といったいわゆる文書管理は、当該文書の内容等によって自ずとそれを行うべき部署が定まる。
県警本部ないし県議会事務局の財務担当課は、事業実施部署の予算等の管理、経費の支出その他の財務会計事務を所掌しているところから、その全体的状況を常時掌握し、総合的に調整する責務があり、支出証拠書類の存否、意義及び内容等を最も正確に把握しているため、これを文書管理規程に基づいて管理すべきことになる。
財務規則一三一条二項にいう文書管理の方法として、県警本部には福岡県警察文書規程(昭和四二年一二月二二日福岡県警察本部訓令第二一号)が存在し、県議会には、福岡県県議会事務局規程(昭和三五年一〇月二五日福岡県議会告示)が存在する。
出納長が支払決定を終えれば、財務担当課から送付を受けた支出証拠書類は出納長にとって不要なものとなるため、財務規則中に明文の規定はないが、支出証拠書類を財務担当課に返還すべきことは自明のことである。
なお、財務規則一三一条一項及び二項は、支出証拠書類について何ら文書管理の主体を定める規定ではない。
(3) 出納事務局は、平成八年一〇月一日以前には、財務担当課から出納長に送付された照合資料及び支出証拠書類のうち支出証拠書類を保持していたが、これは、文書保管場所の確保といった問題から、根拠はないものの便宜上保持していたにすぎず、当該文書の本来的な保管・保存は担当部署(財務担当課)が行っていた。
(4) 右のとおり、県警本部ないし県議会事務局の財務担当課は、本件移管の前後を通じて、文書管理規程に基づいて支出証拠書類を管理すべきであるところ、実際に本件各文書を管理しており、被告は、本件各文書を管理していなかった。
3 前記1のとおり、①本件各通知は抗告訴訟の対象となる行政処分ではないから、本件訴えは不適法である。
仮に、本件各通知が抗告訴訟の対象となるとしても、前記2のとおり、②本件各文書は被告の管理するものではなく、本件各通知を取り消されても被告にはこれを開示する方法がないから、本件訴えは訴えの利益を欠くものとして不適法であり、③本件各文書は、本件条例二条一項にいう公文書ではなかったから、本件各通知は適法であり、原告の請求は理由がない。
第三 当裁判所の判断
一 本件各通知の処分性について
本件条例には、公文書の開示を請求した者(以下「請求者」という。)に対して公文書不存在の通知をすることの定めはないが、被告によって行われる右通知は、非開示理由があるとして公文書を開示しない旨の決定と同様に、被告の本件条例の実施機関としての立場から、請求者としての地位を一方的に否定する行為であって、請求者の法律上の地位に直接影響を及ぼすものというべきであるから、右通知は、実質的には公文書を開示しない旨の決定として、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるものと解するのが相当である。
したがって、本件各通知(以下では「本件各処分」という。)は、公文書を開示しない旨の行政処分として抗告訴訟の対象となるというべきである。
二 本件各文書の公文書性について
1 本件各文書の取得について
支出証拠書類は、前記第二・三1(一)(二)のとおり、出納長が支出命令に対する審査・確認をして支払決定をするための必要書類として県警本部ないし県議会事務局の財務担当課から出納長に送付されるものであり、後記2(二)(三)のとおり、支出命令に対する審査・確認後、県警本部ないし県議会事務局に返還することが予定されているとはいえないから、本件各文書は、被告の職員である出納長が職務上取得したと認められる。
2 本件各文書の管理について
(一) 文書の性質と管理について
被告は、文書の保管・保存・廃棄といったいわゆる文書管理は、当該文書の内容等によって自ずとそれを行うべき部署が定まることになり、県警本部ないし県議会の照合資料及び支出証拠書類は、その財務担当課がこれを管理すべきもので、財務規則に定めがなくとも、出納長が支払決定のために送付を受けた支出証拠書類を財務担当課に返還すべきことは自明のことであると主張する。
しかし、地方公共団体の証拠書類の管理について、財務会計上の定めにおいて、出納機関を管理主体と定める例(証拠書類について東京都会計事務規則一一一条、証拠書類のうち領収済通知書について島根県会計規則一五三条二項参照。乙一七、一八)もあることに照らすと、県警本部ないし県議会の支出証拠書類という文書の性質から、当然に文書管理の主体が県警本部ないし県議会事務局の各財務担当課に定まり、出納長が支出証拠書類を財務担当課に返還すべきことは自明のことであるということはできず、この点に関する被告の主張を採用することはできない。
なお、被告は、出納長ないし出納員が支出証拠書類を管理すべきではなく、実際にも管理をしていない理由として、支出証拠書類についての非開示事由の判断は、出納長においてすることはできず、担当部署において判断するほかないことを指摘する。
しかし、本件条例は、その施行前に定められていた支出証拠書類の管理主体を変更する趣旨ではないから、①福岡県においてどの部署が支出証拠書類について本件条例の定める非開示事由の存否を判断するのが容易であるかという問題と、②福岡県における支出証拠書類の管理主体がどこかという問題は、必ずしも主体を共通に考えるべきものということはできず、被告の右指摘は失当である。
(二) 財務規則について
そこで、福岡県の財務会計上の定めである財務規則を検討すると、同規則一三一条一項は「出納長及び出納員は、収入及び支出に係る証拠書類を、会計ごとに区分し、予算科目により分類して月ごとに編集しなければならない。」と定めており、同条二項は、「前項の証拠書類は、別に定める文書管理の方法により、編集し、保存するものとする。」と定めているところ、同条二項にいう文書管理の主体について、同規則中には、明示の定めは存在しない。
この点について、被告は、同規則一三一条一項及び二項は、文書管理の主体を定めるものではないと主張する。
しかし、①同条一項の「編集」の主体は、出納長及び出納員であるから、同条二項にいう「編集」の主体も出納長及び出納員と解するのが自然であり、そうであるとすれば、同条二項にいう「文書管理」の主体も出納長及び出納員となるべきこと、②同規則九三条二項は、「出納長(廨にあっては出納員)は、前項の確認(注・支払決定に当たっての確認)ができないときは、その理由を明らかにして送付された書類を返送しなければならない。」と定めているが、同規則中には、支払決定がされた後の支出証拠書類について、これを返還ないし送付すべき旨を定めた規定が存在しないことからすれば、同規則一三一条一項及び二項は、収入及び支出に係る証拠書類について、出納長及び出納員が管理すべきことを定める規定であると解するのが相当である。
右のような同条項の解釈は、前記第二・三1(二)(三)のとおり、財務規則の施行から平成八年一〇月一日まで、福岡県においては、出納長による支払決定がされた後、照合資料及び支出命令書の所属控えは、財務担当課に返還されるものの、支出証拠書類は、すべて出納事務局において保管し、出納事務局以外の所属の閲覧等については出納事務局の承認が必要とされる取扱いであり、本件条例の施行後も右取扱いは続けられていたことからも裏付けられるということができる。
被告は、右の取扱いについて、根拠のない便宜上のものにすぎなかったと主張するが、右の取扱いは、かなりの長期間にわたって行われてきたのであるから、これを根拠のない便宜上のものであったと考えるのは困難であり、被告の右主張を採用することはできない。
(三) 要綱及び文書管理規程の存在について
ところで、証拠(乙二、一〇の2、一一、一二ないし一三の各1、3)によれば、①福岡県財務規則運用要綱(昭和三九年九月二五日)一三一条関係四項には、「第二項(注・財務規則一三一条二項)の「別に定める文書管理の方法」とは、福岡県文書管理規程(昭和六一年福岡県訓令第一号)、福岡県教育庁文書管理規程(昭和六一年教育委員会教育超訓令第四号)等を指すものであること。」との定めがあり、②福岡県警察文書規程七一条の引用する別記第5の文書分類表によれば、大分類「E財務」・中分類「E3県費出納」・小分類「E32支出」・細分類「E32―一般支出」の例示書類として「支出証拠書類」との記載があること、③福岡県議会事務局規程二七条の引用する文書分類表には、大分類「C財務」・中分類「2支出」・分類記号「C22」に「支出証拠書類」との記載があることが認められる。
この点に関し、被告は、平成八年一〇月一日以前においても、県警本部ないし県議会の支出証拠書類は、右①の要綱にある文書管理規程と同様の右②③の文書管理規程に従って、その財務担当課が管理すべきものであり、実際に管理されていたと主張する。
しかし、前記(二)のとおり、財務規則一三一条一項及び二項が支出証拠書類の管理主体を定める規定である以上、講学上の行政規則(訓令)にすぎない右②③の文書管理規定によって財務規則に定められた管理主体を変えることはできないから、右②③の文書管理規程の存在を根拠として、県警本部ないし県議会の支出証拠書類は、その財務担当課が管理すべきものであったとの被告の主張を採用することはできない。
また、前記第二・三1(三)の平成八年一〇月一日以前の支出証拠書類の取扱いからすれば、同日以前において、県警本部ないし県議会事務局の財務担当課が実際に右②③の文書管理規程に従って支出証拠書類を管理していた(それが財務規則に適合するかは、また別の問題である。)と認めることもできず、この点に関する被告の主張も採用することができない。
(四) 結論
右のとおり、財務規則一三一条一項及び二項は、支出証拠書類を出納長及び出納員が管理すべきことを定めた規定であるところ、前記第二・三1(一)(二)の支出手続及び本件各文書が平成七年度の支出証拠書類であることからすれば、出納長は、本件各処分の前に支出証拠書類である本件各文書の送付を受けていたものと認められ、本件各処分時において、本件各文書は、被告が管理していた文書であるということができる。
3 本件各文書の決裁又は回覧等の手続の終了について
弁論の全趣旨によれば、本件各処分の時点で本件各文書について決裁又は回覧等の手続が終了していたことが認められる。
4 前記1ないし3のとおり、本件各文書は、本件各処分時において、被告の職員が職務上取得した文書であって、決裁又は回覧等の手続が終了し、被告において管理していたものであるから、本件条例二条一項にいう公文書であったというべきである。
三 本件移管について
1 なお、前記第二・三1(三)のとおり、本件各文書を含む県警本部ないし県議会事務局の支出証拠書類は、出納事務局で保管されていたものが、平成八年一〇月一日以降、県警本部会計課ないし県議会事務局総務課に移管された(本件移管)ところ(ただし、実際の移管がされた時期と本件各処分の先後を認定できる証拠はない。)、本件移管によって本件各文書の管理主体の変動が生じたことは、当事者の何ら主張しないところであるから、本来判断の必要がないが、事案に鑑み、念のためこの点について判断を加える。
2 財務規則一三一条一項及び二項は、支出証拠書類を出納長及び出納員が管理すべきことを定めた規定であるから、本件移管が同項に適合するものとすれば、本件移管によって、支出証拠書類は、財務規則にいう本庁である県警本部ないし県議会事務局におかれた出納員又はその財務担当課におかれた出納員を補助する経理員が管理しているものと考えるほかない。
そうであるとすれば、出納員及び経理員は当然に被告の職員であるから(財務規則六条一項但書、一一条一項但書)、本件移管の後も被告において本件各文書等の支出証拠書類を管理しているということができる。
3 また、仮に、本件移管の結果、本件各文書等の支出証拠書類が出納長、出納員又は経理員以外の者によって実際に管理されているとしても、この管理は財務規則一三一条一項及び二項に反するものであって、自らそのような事態を生じさせた被告が、本件移管によって本件各文書の管理を失ったと主張することは許されないというべきである。
したがって、本件移管によって本件各文書の管理主体が変動したということはできない。
第四 結論
以上によれば、本件各処分は抗告訴訟の対象となる行政処分であるところ、本件各文書は、処分時において本件条例二条一項にいう公文書であり、被告の管理するものであったから、本件各処分は違法であり、右処分の取消しを求める原告の請求はいずれも理由がある。
なお、前記第三・二、三に認定判示したところによれば、本件各文書は、現に被告の管理するものであるということができるから、本件訴えは、訴えの利益を欠くものではない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田中哲郎 裁判官奥山豪 裁判官古財英明は、転勤のため署名押印することができない。裁判長裁判官田中哲郎)
別紙文書目録<省略>